高知新聞「土佐あちこち」のコラムより

来る! 非常ベルがジジーッと鳴った。次の瞬間、船は横か
ら大波をかぶり、画面はしぶきで閉ざされた。
映画「吼える40度線」を見た。南極近くの暴風圏域。漁師
も恐れるその海域で、ミナミマグロを狙う遠洋船を追ったド
キメントだ。
撮影者は、ノンフィクション作家の斎藤健次さん(63)=千
葉県船橋市=と当時の漁労長。東京都出身の斎藤さんは、豪
快な「土佐船」に魅せられ、約30年前、室戸漁協所属の「合
栄丸」に乗り込んでカメラを回した。
80時間に及ぶテープを見終えた監督は、「漁師自身が捉えた
貴重な記録」「奇跡の映像」と評した。長期の航海はカメラマ
ンの同行が困難で、遠洋マグロ船の全体像を記録した映像はこ
れまでなかったという。
荒海の中、力を合わせて巨大なマグロを釣り上げる。娘の写
真をじっと見つめる。海の男の息遣い、匂いが、画面からそ
のまま伝わってくる。
先日、室戸市で開かれた試写会。漁師の父と兄を持つ女性は
涙が止まらず、元乗組員は「良かった」と興奮気味に語った。
遠洋マグロ船を取り巻く環境は厳しい。しかし、30年前の
漁師の姿は、未来への力強いエールになるだろう。

           1月22日 室戸・真崎裕史