航海

ミナミマグロの漁場、アフリカ大陸の南端ケープタウン沖まで、40日余かかる。時速11ノット。自転車のようなゆったりとした速度で、漁場を目指してひたすら南下する。
朝、日の出とともに起き、朝食を食べていると、スタンバイのベルが船内に鳴り響く。甲板に船員たちが車座になって漁具の仕掛けを作っていく。枝縄にナイロン、釣針、スナップを取り付けていく。150キロに繋げた幹縄を縄小屋に収め、ランプ、ラジオブイ、ビン玉を艫にセットする。
昼食の後、午後も3時ごろまで甲板作業が続く。散水機でデッキを流し、汗で濡れた作業着を洗濯機に放り込み、風呂に入る。洗濯も風呂も海水だが、上がりのシャワーだけは真水が使える。あとは夕食、寝るまでは自由時間だが、交代でワッチ(当直)がはいる。甲板員はブリッジ(操舵室)で見張り2時間、機関員は機関室で機械の点検3時間。湯上りに、デッキに腰かけて冷えた缶ビール(個人が積み込んだ)をグイと飲む。
波ひとつないとろりとした水飴のような海面を、飛び魚がバッタのように飛び跳ね、イルカが船とスピードを競うように船首でジャンプする。無人島から白煙。マストにどこから飛んできたのか伝書鳩が羽を休めている。
セベレス島、ミンダナオ島、バリ島…。ラジカセから、ビリーボーン楽団の「波路はるかに」「白い渚のブルース」の軽快なリズムがマッチング。水平線に陽が落ち、南十字星。
航海中、ブリッジでいった漁労長の言葉がまだ耳に残っている。
「こうして一日中、海を見ていても飽きることがないがやき。オカでくよくよ考えていることが小さくてバカバカしくなってくる」
今もできることならマグロ船に乗りたいと思う。一年以上もかけて自分たちが釣り上げたマグロの水揚げを見たい。大漁旗をはためかせ母港に帰港するあの感動をもう一度味わいたいと思う。
(2007年 9月7日)
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