日本のマグロ漁が危ない!  斉藤健次

遠洋マグロ漁船を降りて二十三年。マグロ漁師料理店を開き、魚市場でマグロを買い付け、料理してきた。  近ごろ、おいしいマグロが少なくなってきている。痩せて脂がない。せっかくいいマグロにも傷や染みがある。  セリ場に並ぶマグロは、ほとんどが輸入マグロである。
 日本の遠洋マグロ船は、上質のマグロを求めて地球の隅々まで漁場を開拓してきた。北洋のアイスランド沖、カナダ沖から地中海、インド洋、南氷洋まで。資源の減少を考慮して、自主的に減船もした。その日本の遠洋マグロ船が、安い輸入マグロに圧迫され、相次いで倒産している。
 国際資源管理機構は、マグロ資源を守るために漁獲規制を強めてきた。このほど神戸市で五つの機関が初めて合同会議を開いた。残念ながら、選択された行動方針はまだ十分なものといわざるを得ない。
 日本では規制のアミを潜りぬけて、激安マグロが出回り続けている。違法と知って買い付けているのは日本人である。消費者が安いといって喜んで食べるから、どんな素上のマグロでも買い付ける。
 資源へのダメージが大きいのは、大型巻き網船だ。ヘリコプターで魚群を探査し、未成魚のマグロを巻き網で一網打尽に巻いて獲る。そのマグロにエサを与えて肥らせる蓄養マグロが急増している。マグロを食べる習慣のない外国人にとって大事なのは、資源よりもビジネスの儲けである。
 合同会議で日本は巻き網船の規制を主張したが、受け入れられなかった。蓄養マグロは、行動方針に「監視の促進」がうたわれたが、具体策は見えない。
 一方で、安価な蓄養マグロのトロに日本人が殺到する。
 「デカネタ堪能!豪華三点盛り六百円」
 「千円でマグロ食べ放題!」
 と回転すし店。テレビは競うように視聴率が稼げるマグロの特番を組んでブームをあおる。マグロ資源は危機的にあるといわれているにもかかわらず、このスシブームでマグロの消費量が増え、より多くの供給が迫られる。
 需要が増え、供給を満たそうとすれば、漁期前の痩せたマグロまで手を出し、そのマグロは安く買いたたかれ、採算をとるために量で稼ごうと乱獲する。世界の海でこんな悪循環がおこっている。
 安いマグロを追い求めれば、いつかマグロ漁業は崩壊するだろう。漁獲規制を強化して違法船を取り締まり、ある程度マグロの価値が上がって適正価格が守られれば、消費が落ち込むかもしれないが、マグロを大事に食べるようになるはずだ。 
 マグロを刺身で食べるというのは、日本固有の食文化だ。その文化を持たない外国船は魚の扱いが雑になる。とくに、マグロは繊細な魚であり、刺身の微妙な味の違いがわかる日本人でなければ丁寧に扱えない。マグロ漁船にのり、現場を見てきた私の実感だ。
 今、日本の遠洋マグロ漁船は生き残りの正念場であり、生産者の努力だけでは限界にきている。マグロ資源とマグロ漁文化を次世代に継承していくには、獲る人、買う人、食べる人が一丸となって考えていくことが必要ではないだろうか。
 消費する前に、日本の漁師たちがいかに厳しい状況にあるか、そのマグロがどこから来たかを知ってほしい。
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