地獄針

初航海のとき、先輩たちから「揚げ縄中は縄を踏むな!」「縄を手に巻いてあげるな!」と口やかましくいわれた。もし、その縄にマグロがかかっていれば、急にマグロが走り出し、縄が身体に巻きついて、海にもっていかれることがあるからだ。
 マグロを仕掛ける延縄には釣り針が3000本ぶらさがっている。100キロ、200キロの巨大マグロが食いついてもビクともしない鋭いカエシのある3,5寸のマグロ針を、漁師たちは≪地獄針≫という。
操業中のケガは、この釣り針による事故が多く、作業中は釣り針に神経をとがらす。激しい潮流に縄がもつれて甲板に揚がると、事故を防ぐために釣り針を切っていく。
 前方から襲いかかる三角波に翻弄されるマグロ漁船。大きなうねりに船体が傾き、地獄針が強風にあおられて凧のように空を舞う。マグロ漁師は、地獄針という凶器から身をかわしながら、今日も縄を揚げている。
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