マグロは揚った瞬間に値が決る

ドスンと鈍い音をたてて、マグロの巨体がデッキにころがる。バタバタと暴れ回るマグロに股がり胸ビレわきの急所めがけてひと突き。毒々しい血が噴き出しデッキは血糊で真っ赤に染る。 マグロは海面に揚った瞬間に値段が決まるといわれ、釣り揚げられたそのままの鮮度で日本に運ばなくはならない。暴れ回って死んだマグロは身焼けして肉身が落ちるので、手早く処理する。

まず脳天に穴をあけ、尾ヒレを切断する。脳天から背骨の髄(ずい)にプラスチックのピアノ線を通し、貫通させて神経を押し出す。マグロは神経を抜かれると一瞬白くなりピタっと痙攣が止まり身が締まる。つぎにエラを落とし腹を包丁で一直線に切り裂く。内臓を取り除き空洞になった腹にホースをさし込んで、海水で洗浄する。

 解剖したマグロはすぐ計量器にかけられ、重さと脂の乗り具合など、ブリッジ(操舵室)に報告し、船長は漁獲したマグロを一本一本記録する。 甲板で処理したマグロは白煙を巻きあげる急速冷凍室の棚に並べ凍結する。零下60度の室温を保つため常にファンが回り続け2昼夜をかけて魚体の芯まで完全に凍結する。

 この冷凍作業は冷凍長をリーダーに体力のある若い船員たちがあたる。急速冷凍室に2昼夜寝かせたマグロは、揚縄前に後処理をしてから魚槽へ移す。防寒着を着ての作業だが20分もすると鼻水は凍り、手足がしびれてくる。白い粉を吹いたマグロは水を張った水槽にひたし、マグロの表面を氷の膜でおおう。これをアイスグレーズ(氷のうわ薬)といい、ラップで包むのと同じように乾燥と変色を防止するための作業である。

 このあと、マグロは船底にある魚槽に移し、零下60度のなかで水揚げするまで封印する。超低温で保管したマグロは2年間は生マグロと変らず新鮮な状態を保つ。img001船底に魚槽が5つあり、すべて満杯になると日本に帰国できる。だが、今は操業途中で運搬船に転載して、魚倉を空にして操業を続ける船が多い。