イージス艦事故 なぜ避けられなかったか

 日本を守るべき最新鋭のイージス艦「あたご」が、衝突回避の義務を放棄し、マグロ延縄漁船「清徳丸」を押しつぶした。全長165mの護衛艦(7,750トン)が、全長12mの小型漁船(7,3トン)にぶつけたその衝撃は想像を絶する。
 衝突現場は、千葉県野島崎沖の太平洋。東京湾の出入りなど大型タンカーや商船、漁船などが頻繁に行き来する海域で、通過する際に細心の注意が必要とされる。さらに、視界の悪い午前4時過ぎの夜明け前で、魔の時間である。あたごの艦橋には当直10人に加え、直前に交代した乗組員など30人がいた。
 建造費1400億円のあたごは対空戦闘では、同時に10個以上の目標を捕らえ選別し、迅速に攻撃する超高性能艦。乗組員は多くの海上自衛隊員から選別されたエリートたちで、ハワイで訓練を終え、横須賀港を目前に気が高まり注意も散漫になっていたのではないだろうか。
 遠洋マグロ漁船でも2年近くの長い操業を終え、日本に近づいてくると船内は興奮してくる。「まぐろ土佐船」で、ぼくは最後の章にこんな場面を書いた。
 《「コック長、畳の上で寝るまで、気い抜いたらいかんぜよ」「分っちゅう」私は土佐弁で相槌を打った。帰港中、漁船の事故が多いということは、みんなからよく聞かされていた。帰港を急ぐあまりに無理をすることもあるが、多くの事故は気の緩みから起きている。》
 水揚げのために静岡の清水港に入港するときも、漁労長はじめ船長、航海士、甲板長など幹部たちがブリッジに集まり、細心の注意を払いながら事故のないように舵をとった。
 ところが、あたごは船団を組んで漁場に向かう小型漁船が行き交うこの海域で、衝突1分前まで、自動操舵のまま漫然と航行していた。
 「緊急性を感じなかった」「そのまま進めば自船の後ろを通り過ぎると判断した」と衝突直前に灯火を視認した状況について見張り員はこう答えたという。
 「お前ら、どけ!どけ!」小型漁船が避けるのが当たり前、といった官尊民卑の驕りが「あたご」だけでなく護衛艦にあったのではないか。
 板子一枚下地獄。死と隣りあわせの海の仲間意識が、あたごにあったのだろうか。海上保安庁に一報が入ったのは衝突から16分後。海上保安庁より先に防衛省が乗組員から事情を先きに聴いている。海上自衛隊は4機のヘリコプターを捜索に動員。しかしその1機を航海長を事情徴収するために海幕へ移送。当直責任者が現場海域を離れたというのは、人命救助を後回したと批判されてもしかたがない。事故の第一報は遅れ、説明も二転、三転。
 まだ行方不明の哲大さんは、特大マグロを釣るのが夢だった。
 「普通の見張りさえしていれば、起こらなくてもいい事故だった。それがくやしい」という仲間の漁師の言葉が重い。一日も早く事故原因を解明してほしい。
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